病院再建

何も知らないで転職してきた病院は借金20億の経営不振な病院でした。
なぜか理事長を引き受ける事になり、経営やマネジメントの知識が全くない状態から手探りで経営の再建を行った記録です。
今振り返れば、もっとうまくやる方法がたくさんあったようにも思いますが、素人だったので悪手もうってました。

Ⅲ-11 最終決断、連帯保証を引き受ける?

再生計画の最終案、債務カットの額、などが出そろって、いよいよ最終決断です。この時点でやっぱ無理です。と言ったらヒンシュクを買うのと、費用が1000万ほどかかりますが、まだ一応後戻り可能でした。

再生支援を受けた場合のメリット

まずは10億の債務カットです。これの利息だけで3000万弱収支が改善します。

もう1つは支援機構からスタッフが送ってもらえること。わたしは、経営、マネジメントは素人でしたから助かります。

受けた場合のデメリット

連帯保証人にならないといけないので、もし再建に失敗したら、その時点でいったん自己破産です。

気になる点 続きを読む

Ⅲ-10 債務カット10億!

再生計画は、熾烈な綱引きののちにほぼほぼ最終案ができてきました。

資産の再評価ののち、債務超過は12億強

再建計画を立てると同時に資産の簿価の見直しも行われました。建物や土地などを含めた資産から債務を引いたらマイナス10億ですよ、といわれていたわけですが、それはあくまで帳簿にのせた時点の価値でありますから、資産の価値を再評価してみる事になりました。このような作業は通常行われるようで、JALの時も行われています。

なぜ行われるのかというとその時の資産を適正価格で評価する必要があるという事。債務カットが行われると、カットされた分は利益になってしまいます。利益になればその部分には法人税がかかってしまうので簿価損を算入して利益を圧縮するという狙いもあります。JALはこの時に航空機の簿価損が莫大で何年間も法人税を払わなくてよくなった事は有名です。

当法人も資産の再評価を行ったところ簿価が下がり、債務超過は増加して債務超過は12億強という事になりました。

再建計画の最終案は?

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Ⅲ-9 再生計画をめぐる綱引き

引き返せるぎりぎりまでは進んでみようと決意し、支援機構に現状分析をお願いしました。

メインは病院再生計画

法人の再建の中でもメインとなるものは病院の再生で、支援機構が再生を支援するからには、旧来の精神科病院のスタイル(患者さんを入れっぱなしにするというスタイル)からの脱却というものがメインテーマになりました。

新入院患者数5倍?

コンサルタント会社(転職の時に見学行った病院の経営をしていた会社でした)(Ⅰ-3 病院見学 医師紹介会社のエージェントは役に立つ?)や再生支援機構のスタッフからあった提案は、毎月の入院を30名にしましょうというものでした。ちなみに私が入職する前は、1日3人しか診れない院長でしたから月の入院が数名という状況でした。(Ⅱ-2 トンデモ院長part2 )。私が入職した後でもやっと月5名くらい、年間で60名程度でしたから約5倍です。

30名というのは途方もない数字です。200床弱の病院で30名毎月入院するということは3か月で半分の患者さんが入れ替わっているという状況ですから。

新入院毎月30名の根拠は?

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Ⅲ-8 常勤医二人のみ

支援機構に現状分析をお願いしようかどうしようか悩んでいる時に病院で大事件です。

院長が交代して

4月からは前述(Ⅲ-4 病院の改革のために)の先生が入職してくれて、わたしが院長兼任になり、医局の体制はかなり強化されました。

新しく来てくれた先生の診断や投薬は、腑に落ちるもので、安心して任せられました。

そのため急性期亜急性期の病棟はわたしとその先生の二人で診て、それ以外の病棟は非常勤の先生ともともといた常勤の先生で診る体制で固まっていきました。

病院の改革も

もともとトロイカ体制で運営していた(Ⅱ-4 不思議なマネジメント形態)わけですが、毎週一回はそれまで三者で行っていた会議にも顔を出し、四者での会議とし、決めないといけない事、改善しないといけない事をわたしの名の下にスピード感を持って進めていくようにしていきました。

それと並行して、わたしはサテライトクリニックの開院準備や支援機構の話をどうしていこうかなどに頭を悩ませていました。

常勤の医師から辞表が提出される

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Ⅲ-7 再生支援機構に支援をお願いするか?

支援機構のスタッフからはわたしを中心に再建を図る方向で、と提案を受けましたが、それはすなわち連帯保証人になるという事です。債務カットがどれくらいされるのかわかりませんが、現状借金は20億です。

もし支援を受けなければ

わたしが転職する前年の決算では法人全体で100万の経常利益、わたしが転職して一年目が5000万程度の経常利益、経営に関心のない院長が交代したのでもう少しはよくなるだろうという事で仮に経常利益が7000万としても、記事に書いたように(Ⅱ-6 借金20億!債務超過?BS?PL?)債務カットがなければどこかで大きな修繕がきた時点で詰みます。

もう少し、利益が増やせて、かつ15年くらい大きな修繕がこなかったとしても(かなり都合のいい仮定です、こういう発想はだいたい失敗をします)連帯保証人になっている方が70歳を超える高齢で、いつ亡くなるかわからない。もし財務状況があまり改善していない早期に亡くなってしまうとそれでも詰みます。

もし支援を受けたら

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Ⅲ-6 再生支援機構のスタッフ来院

メインバンクから提案のあった再生支援機構の事をどうしようかとしばらく悩みました。

メインバンクの思惑がやはりわからない

先ほどの記事(Ⅲ-5 メインバンクからの提案)にも書きましたが、銀行にとって利益がなければこの話はもってこないだろうと考えていました。でもわたしに思いつく銀行のメリットははたしてそれなりの債務カットに見合うものなのか判断ができません。メインバンクからの出向だった経理部長に聞いてもはっきりしません。

自分にとってのデメリットは?

そこで逆に自分にとってデメリットがあるのかを考えてみたり、友人の弁護士に聞いてみたりしました。

最大のデメリットは連帯保証人になる事で、それはハンコを押さなければいきなりなるという性質のものではありません。しかも当時の私には資産らしい資産もありませんでしたから、万が一連帯保証を引き受けても被害は限定的だろうと考えました。

虎穴に入らずんば虎子を得ず、まずは支援機構の人と会ってみようと思い、そのように返事をすると、後日、支援機構のスタッフが来院することになりました。

実は二回目の訪問

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Ⅲ-2 病院って儲からないんです

自分が経営に関わるようになる前は病院の経営って儲かるんだと思っていました。ある程度以上の病院の院長、理事長なんて言ったらお金持ちってイメージありますよね?

この記事の内容は当時のわたしは理解していない内容でした。このブログでは基本的に当時の自分の理解をなるべく再現するように心がけていますが、今だからわかる事も時々記事にしていきたいと思っています。

厚労省発表の全国の病院の平均的利益率

厚生労働省が発表している資料でH27の病院経営指標をみると
199床以下の精神科病院の利益率が2.1%、200-299床の精神科病院が4.1%、300-399床が5.0%、400床以上で5.4%となっています。
相模湖病院は実質187床で回していたので全国平均だと2.1%です。

多くの精神科の収入源

当時(今でもかもしれませんが)、精神病院のドル箱は療養病棟とデイケアだと言われていました。療養病棟は単価は安いですが、スタッフの数が少ないので利益が出しやすいです。ちなみに相模湖病院は廊下幅が数センチ足らなくて療養病棟には転換できませんでした。デイケアは算定できる日数が少しずつ削られてきているので、今となっては当時ほどの利益は見込めないと思われます。相模湖病院のデイケアは参加者が多い日でも5名で収入源どころか赤字垂れ流しでした。

病院の利益を概算、相模湖病院の場合

利益率を多く見積もって5%としましょう、精神科一般病棟の平均単価は13700円です。病床稼働率が95%としましょう。そうすると、(当時の相模湖病院の実際の数字とは異なります)

187×0.95×13700×365=888338825(売り上げ)×0.05=44416941.25(利益)

となります、利益は約4500万という事になります。それに外来や自費分の収入をいれて、合計5000万の利益があるとしましょう。 続きを読む

Ⅲ-4 病院の改革のために

細かな改革を苦労しながらすすめていくうちに数か月が過ぎ、旧知の小児科医とクリニックを立ち上げる話が浮上してきていました。(はしもと開業記事一覧)それとは別に病院の更なる改革のためにはまともな精神科医が最低あと一人ほしい状況でした。

製薬会社の講演会の司会

製薬会社主催の勉強会で、司会をしてほしいという依頼がありました。当時忙しかったので引き受ける事は大変だったのですが、少しでもつてを作りたいと思い引き受けました。名古屋の大学を出て名古屋の医局に所属し名古屋で働いていたので、当時の私は関東で知り合いと呼べる先生がほとんどいませんでしたから、そういった機会に少しでも知り合いを増やしたいなと思ったのです。

講演会の慰労会で

その際メインの講演をする先生、当時5年目か6年目の指定医をとったばかりの先生ですが、その先生と打ち合わせと打ち上げで会食する機会がありまして、それなりに意気投合して、その直後の地方の学会でも食事をする事になりました。当時はすでに製薬会社主催の会食はなくなっていたのですが、講演会はまだまだありました。

常勤医が増える事に

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Ⅲ-5 メインバンクからの提案

名ばかりとはいえ理事長になりましたから渉外業務も少しずつ出てきます。病院の改革と並行して少しずつこなしていきました。

メインバンク担当者と面会

当時のメインバンクは某大手地方銀行で、そこから10億円強の借入金がありました。債務超過になっていますから、うちの担当は支店の担当者ではなく、経営が危ない取引先を担当する本部の部署が担当でした。いいスーツを着たその担当者と面会すると、「法人の最高責任者である理事長と連帯保証人が異なるというのはコンプライアンス上好ましくない」という事を言われました。遅かれ早かれそういう事を言ってくるだろうと予想していたので、「とはいえ、わたしとしても自分に一切責任のない債務の事は責任を持ちたくない、むしろここまで貸し付けた方の責任もあるんじゃないですか?」と返しました。

メインバンクからの提案

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Ⅲ-3 病院の改革は遅々として進まず

という事で入職半年弱で雇われ理事長へと就任してまずは病院の改革です。

病院が大きく赤字の理由

引き受けた記事には書きませんでしたが、200床弱の病院がそこそこ満床で年間8000万超の赤字ってありえないから、もう少し普通にやればもっと業績は改善するだろうという何となくの見通しもありました。
実は後々知る事になるんですが、この8000万の赤字というのは裏があって、本部経費(借入金の利息だけで6000万超で、本部経費の総額は不明でした)を会計処理上全額病院の経費として算入していました。としても病院単体で0~2000万程度の黒字とみなされますからもう少し何とかなるはずです

経営面の改革に手をつける前に

経営的な事はひとまずおいて、臨床面の充実と、仕事の効率アップに取り組もうと思いました。本来の業務に割ける労力を増やす事ができますから、仕事の効率アップは必要です。また、臨床面を充実させる事はこういううまくいっていない病院の場合は必須と考えられます。医療・介護職の方々に経営の事を言うと、「それは患者(利用者)のためにならない」というようなエクスキューズを声高に唱える人が必ず現れます。多くの場合、そういう人はそれをエクスキューズにしているだけで、現状のぬるま湯体質が居心地のいい方たちです。そこで、いい医療を提供するためにこれは必要です、とこちらも主張する必要があるわけです。

実際には経営面の改革に手をつけるには当時のわたしはスキル不足だったというのもありました。

臨床面の充実のために

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